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りらっくすくま。

2014.09.04(Thu) 【物語

笑う 5題

01.大口あけて
02.おしとやかに
03.眼だけで

04.困ったように
05.にやり

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2014.09.03(Wed) 【物語

婚活での出会い

 友人が「一緒に婚活へ行こう」と言うので、仕方なく付き添うことにした。
 男性は参加費として千円取られるというところで渋ったのだが、友人が出してくれるというので本当に仕方なく。俺ももう30、そういう気がないわけではない。

 会場へ着くと、参加者全員が列をなして、男性は参加費を払い番号札を渡される。小さめのテーブルとあまり座り心地のよさそうではない椅子が並べられ、司会の指示に従って男性が左側にひとつづつ椅子を移動していくという形式らしい。
 男女総勢20名と言ったところか、休憩も挟みつつなのでわりとのんびり会話することが出来そうだ。
 自己紹介カードを記入してそれをお互いに手渡し、会話がスタートする。
 初めに話したのは、20代前半にしては何というか色気のある、長い黒髪が綺麗なひと。俺から見て右隣にいる女性とは友人で一緒に来たそうだ。こちらも友人と一緒に来ているので、そうお互いに笑い合いつつ、その友人の方が気になってしまう。それに気づいたのか、目の前の女性はその友人の話をし始めた。小学生からの友人であることや、彼女が婚活に来るのは初めてで、半ば無理やり説得して付き添ってもらったということ。俺たちと似た境遇の彼女たちにまた笑ってしまう。
 そろそろ移動の指示が出て、お礼を言い会釈をしてその隣のひとと会話をする。ということを繰り返していった。時々友人が話しかけてきたが、噛み噛みで何を言っているのかわからず聞き流した。
 そして、待ちに待った最後の女性。暗めの茶髪に、白い肌によく合う赤色というよりも朱色っぽいカーディガンに、ベージュの膝丈スカートからは細い足が伸びていた。目の前にきてよくやく見つめることが出来た、と自己紹介カードを差し出すのを忘れていた俺に、彼女は控えめに笑いながらカードをずいずいと差し出した。すみません、といいカードを差し出しお互いに受け取る。
 最初に聞いた情報を出してみる。隣の方とお友達なんですね、とかそういう当たり障りの無い会話から。職業に"カフェ店員"と書いてあったので、「何処のカフェですか?」なんて聞くと少し警戒されたようで、「場所は都内の...女性なら知っているかなくらいの知名度はあるところです」、なんて絶妙にかわされ話題も変わった。俺の趣味であるところのスノボ、「毎年滑りに行くんですか?」と聞かれ頷く。私も好きなんです、と言ってもはじめたのは3年前ですけど、と言ったときの照れ笑いがとても可愛くみえた。
 司会から終わりの声が響き、次は何やら連絡先交換カードの記入をしなければいけないようだ。隣の友人がどうする誰に渡す?と騒いでいるが無視して、3枚あるうちの1枚にだけ自分のメアドとメッセージを書いて回収している司会の人に渡した。気になっているのはもちろん、最後に話をした彼女だけだった。
 次は気になっている女性の前の席へ行ってのフリー会話らしい。これはチャンスとばかりに、俺は席を移動することなくそこに座り続けることにした。後ろから何名かの視線を感じ、やはり彼女は若いし、モテるのかと思ったが離れるつもりはなかった。そして友人も隣に座り続けている。俺が一番最初に話した長い黒髪が綺麗なひと、の前に。
 フリー会話が開始してからも、変わらず彼女は終始笑顔で俺との会話を楽しんでくれているように見えた。そして終わりの合図が響いたとき、「カード書いたから、よかったら連絡ください」と言うと、彼女は嬉そうに微笑んで「私も書こうと思ったんですが、恥ずかしくてかけなかったんです。よかった」と安心したように呟いたのを聞き逃さなかった。
 俺はそのあと、女性からの連絡先交換カードを何枚か貰い、1枚しかもらえなかったという友人の妬みを聞きながら、最寄り駅まで戻って飲みに行くことにした。

 数日後、彼女から連絡が来るまでそわそわしていたのは、言うまでもないこと。
2014.07.25(Fri) 【物語

ストーカーじゃないです

 すっかり夜も更けた帰り道、都心よりも大分街灯の少ないまち。
 周りには先を歩く若そうな男性と、先ほどすれ違った犬の散歩中のご婦人だけ。
 駅からずっと後ろを歩いているせいか、男性は一度ちらりとこちらを振り返った。
 その顔は不信そうでも、不快そうでもない。
 どうしよう、私もしかしてストーカーか何かだと思われてるのかな。
 全然違うのに、マンションがこっちなだけなのに。
 私は小走りで男性に近づき、潔白を証明するように言った。
「あの、ずっと後ろを歩いていますが、ストーカーとかじゃないです! 
 私もこっち方向なだけで、ストーカーじゃないです!」
 言い切った、言い切ったぞ。
 少し誇らしい気分になっていた私の顔を見て、男性は吹き出し大笑いを始めた。
 私はなぜ笑うのかと、頭上にはてなマークを飛ばしていると、やっと笑い終えた男性が口を開いた。
「ストーカーだなんて思ってないよ。
 女性ひとりでこんな夜道を歩いて心配だったから、こっそり見てただけ」
 なんだ、勘違いされていなくて良かった。と一安心する。
「ちなみに俺もストーカーじゃないからね」
 また笑いながらそう言われ、ごめんなさい。と苦笑いで答える。
「じゃあ、そんなわけで家まで送ってくよ」
「どんなわけですか、大丈夫ですよ。もうすぐなので」
 遠慮とかではなく、本当にマンションはもう目と鼻の先だ。
「そう? まあ取り合えず、俺もこっちだから分かれ道まで一緒に行こう」
 きっと気を使ってくれたのだろう、男性はそう言いゆっくり歩き出した。
 少しして、「私、ここです」と足を止める。
 マンションを指差し、結局送って頂いてすみません。と頭を下げる。
 男性は驚いたように私を見て、「俺もここ。」と呟く。
 どうやら隣ではないものの、同じ階の住人だったようで。

「またね、  さん」
「はい、ありがとうございました。また」
 そう言ってお互いの部屋へと帰って行った。
2014.05.13(Tue) 【ことば

夢の話をしましょう

「夢の話を聞かせてくれますか?」
「いつ頃の夢がいいですか?」
「君が覚えているものは、すべて話してくれると嬉しいです。」
「分かりました、まずは小学生の頃によく見た夢の話をしましょう。」

いつも夢の舞台は、現実世界を忘れさせない場所。
自分の家、二階の寝室、後ろの空き地、定番でした。
その頃毎日のように見ていたのは、自分が殺される夢…
いや、殺される前に目が覚めるものばかりでした。
階段を上る足音、扉を開ける軋んだ音、静かに忍び寄る気配。
私はお布団から足や手や、髪を出さないように必死でした。
見つかったら殺されるということよりも、お布団から出ている部分が切り落とされる、なんてことを考えていました。
そのひとの顔や性別などは一切分かりません。
何度も同じ夢を見ているのに、いつもこわくて夢の中でも目が開けられませんでしたから。
ただ、殺されるというのは分かりました。
刺されるのか、首を絞められるのか、その方法は最後にしか分かりません。

結局私は、首を絞められて殺されました。
何度も繰り返し見た、殺される寸前で目が覚めていた夢は、
私が殺されてから、もう見なくなりました。
あれから10年ほどになりますが、もうあの夢は1度も見ていません。


「君はずっと、殻を破れず苦しんでいたのかもしれませんね。
 自分が殺される夢と言うのは、古い自分から新しい自分へ生まれ変わる、という意味があります。
 その準備を、実は現実世界でもしていたのではありませんか?」
「分かりません… 夢のことばかりで、現実でのことをあまり鮮明には覚えていないんです。
 変わりたかったのは事実ですが、変われたのかは分からないままです。」
「変われたとしても変われていなかったとしても、いまの君はとても素敵です。
 矛盾しているかもしれませんが、ね。」
2014.05.13(Tue) 【ことば

No name

私は、まだ名前の無いうさぎという生き物らしい。
転生のとき、必ずしも前世と同じものになるとは限らず、
また、前世の記憶があるというのも本当はおかしな話なので。

割と狭いかごの中で生きている同士とは違って、
私はすでに人の手に渡り、ふかふかのクッションの上でお昼寝をする。
かごやおりなどという、私を閉じ込めるものは無い。
ご主人の膝元でご飯を食べ、水を飲み、躊躇無く排便もした。
それでも、名前はまだ無い。
呼ばれることはなく、他のものと接することはなく、寂しくて死ぬことも無い。

私は幸せなのです。
ただ、名前が無いだけで。

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